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オクシタニアル 中山 知大さん

―日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。

水天宮で長く親しまれてきたフランス菓子の専門店「オクシタニアル」が2025年6月に浜町へ場所を移し、新たな一歩を踏み出しました。お店を率いるのは、国内外のコンテストで数々の受賞歴を持つオーナーシェフの中山 和大さん。“まちのケーキ屋さん”として早くも浜町の風景に溶け込むオクシタニアルのこれからと、まちへの想いについて語っていただきました。

ものづくりの楽しさが、道しるべを照らす光に

―中山さんの原点は、幼少期のお菓子作りにあるそうですね。

小学4年生の頃だったかな。学校の図書館で借りた野外キャンプの本に、お菓子作りのページがあったんです。そこに載っていた羊羹を白玉で包むお団子が初めて一人で作ったお菓子。僕の地元の長野県諏訪市は寒天が有名で、牛乳寒天なんかも作りましたね。

どれも本当に簡単なものばかりですが、自分の作ったお菓子を家族が喜んでくれるのが何よりもうれしくて。もともとものづくりが好きだったこともあり、その延長線上にあったのがお菓子作りだったんだと思います。

―お菓子作りの楽しさが、パティシエを志すきっかけになったのでしょうか?

いえいえ、最初は全然考えてもいないことだったんですよ。高校卒業後は大学進学というのが当たり前の環境でしたし、自分もそのつもりでした。でも、ある時「このまま大学に行くことが、自分にとって本当に幸せな道なのか?」という疑問が湧いてきて…。だったら、自分の好きなことをやろうと製菓専門学校へ進むことを決意しました。

専門学校卒業後はまちのケーキ屋で働いていましたが、その頃から「一緒に働きたい」と憧れていたのが五十嵐 宏シェフ。「六本木ヒルズクラブ」でパティシエをされていると知り、思い切って応募しチームの一員に。その後、五十嵐シェフとともに「マンダリン オリエンタル 東京」へ移り、気付けば8年もの間五十嵐シェフのもとで学ばせていただきました。

―五十嵐シェフが独立されるタイミングで、「クラブハリエ」からお声が掛かったそうですね。

クラブハリエの新店となる、オクシタニアルのシェフパティシエとして声を掛けてもらったんです。水天宮に誕生したこの店舗では、物件探しから商品開発、店舗づくりまで深く関わらせていただき、約10年、この店と歩みを重ねてきました。

その後、クラブハリエからの独立にあたり、これまで携わってきたオクシタニアルの屋号とブランドをクラブハリエから正式に受け継ぐことになりました。こうして浜町に“新生・オクシタニアル”をオープン。職人としての手仕事に加え、経営者として店を導く責任も背負いながら、改めてスタートラインに立ちました。

発想の源にあるのは、“日常”という無限の素材

―ショーケースに並ぶお菓子には、細部まで丁寧な手仕事が感じられます! 代表作「モラン」には、特別な背景があると聞きました。

モランは、洋菓子の世界大会「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」の日本予選で優勝した作品を再構成したケーキなんです。濃厚なチョコレートムースをマンゴーとパッションフルーツの酸味で引き締めた、当店の人気商品でもあります。

自分のお菓子人生の中で一番突き詰めて考えたお菓子ですから思い入れも強いんですが、

実は、この時に開発した型がイタリアのシリコンメーカーの目に留まり、現在は「SAMURAI」という名前で世界中で販売されているんですよ。

―それはすごい! 店内に並ぶトロフィーや賞状からも、中山さんが積み重ねてきた挑戦の“証”が伝わってきます。お菓子作りの発想は、どんな瞬間に生まれるのでしょうか?

アイデアは、特別な場で生まれるのではなく日常に転がっています。モランも和食店で食べたデザートから着想を得たものですし、2011年のクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーに出品した飴細工は、大好きな漫画の一場面からインスピレーションを受けた作品。他のみんなが真剣にデッサンしている時に、僕はコンビニで立ち読みしていたわけです(笑)。

お菓子屋という枠の中だけで生きていたら、きっと“普通”のものしか作れないと思うんです。日々アンテナを広く張っていると、思いがけないところで美しいものに出合える。そういう瞬間が、次の創作につながっていくと感じています。手間を惜しまず、どこの店にも負けないお菓子作り、オクシタニアルらしさをひと目で伝えられるお菓子作りがしたい。その想いで、毎日の仕込みに向き合っています。

浜町は、作り手に声が届くまち。この景色とともに店の物語を紡いでいきたい

―25年以上パティシエとして歩んできた中山さん。その原動力を教えてください!

楽しいから続けている。これが一番です。若い頃はコンクールで結果を出すことが大きな喜びでしたが、今はスタッフが挑戦して結果を出してくれることがうれしい。企業とのコラボや新商品の開発など、新しい可能性が次々に見えてくるのもこの仕事の楽しさであり原動力となっています。でも、まずはこのチームで店を軌道に乗せることが今の大きな目標。自分の店を持つことは、ゴールではなく途中の通過点だと思っていますから。

以前は製造と販売が完全に分かれていて、お客さまとコミュニケーションを取るのが難しかったんです。でも今は、自分の店ですから! 「近くにできてうれしい」「閉店して寂しかったのよ」と声を掛けていただけるのは、経営者としても作り手とてしても本当にうれしく、何よりの励みになっています。

―中山さんご自身は、このまちにどのような印象をお持ちですか?

10年前と比べると、昼も夜も人が増えましたよね。どんどん活気が生まれていく印象で

す。都心らしいにぎわいがある一方で、住みたいと感じさせる落ち着きが同居しているのが浜町の魅力。訪れるだけの場所ではなく、暮らしが自然と根付いていく温かさがあるように思います。お気に入りのお店も多く、「ととけん」や「富士屋本店」にはオープン当初からよく足を運んでいるんですよ。

まちのイベントが多いのも、浜町らしい良さですよね。実はまだ参加したことはないのですが、こんなにたくさん行われていることに驚きました。これからは、そういった場にも積極的に関わり、まちの皆さんとのつながりも築いていきたいですね。

オクシタニアル

住所:中央区日本橋浜町3丁目3−1トルナーレ日本橋浜町1F

営業時間:10:00〜18:00

定休日:水曜

Instagram:https://www.instagram.com/occitanial/

[取材日:2025.11.27]

写真:北浦汐見 文:濱岡操緒

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