HAMACHO HOTEL 支配人 福島 悠さん
―日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。
2019年2月にオープンした「HAMACHO HOTEL」。まちの新たなランドマークとして「日本橋浜町自家製のおもてなし」を提供し、宿泊者や観光客、地域住民に親しまれてきました。いくつものまちと関わってきた若き支配人、福島 悠さんにとって、浜町はどのようなまちに映っているのでしょうか。ホテルのこれからと、まちづくりへの想いについてお話しいただきました。
ホテルの枠を超え、人をつなぎ、まちを育む場所でありたい
―福島さんが「HAMACHO HOTEL」の支配人を務められて約2年。もともとはイギリスのホテルで働いていたそうですね。
イギリスの大学を卒業後、住み込みで1年ほど現地のホテルで働きました。帰国後は日本の大手ホテルに就職。HAMACHO HOTELを運営するUDS株式会社に入社したのは、2015年です。
最初に携わったのが、「GRIDS」というゲストハウスの立ち上げ。オペレーションだけでなく、海外のお客さまと地元の方とをつなげるイベントの企画や運営にもチャレンジさせてもらいました。日頃からお客さまとの距離が近いカジュアルな接客をしたいという気持ちがあったので、良い経験になりましたし楽しかったですね。
その後、2019年に開業した「MUJI HOTEL GINZA」の支配人として経験を積み、HAMACHO HOTELの配属となりました。
―入社4年目で支配人というのは、大抜擢ですね!ホテリエとして心掛けていることはありますか?
支配人としての経験はまだまだ足りないと思いますが、今もこれからも変わらず大事にしていきたいのは、現場のみんなと一緒に何かを作り上げたいという気持ち。ただのホテリエ支配人としてではなく、まちや関わる人たちと一緒にできることを模索していくのが私のスタイルです。これも、「世界がワクワクするまちづくり」を目指すUDSだからこそできることなのかもしれません。
―まちづくりを意識したホテル事業が御社の特徴の一つですが、HAMACHO HOTELにはどのような特徴があるのでしょうか?
「『手しごと』と『緑』のみえる街」という、まちづくりコンセプトを具現化する施設であることが一番の特徴です。建物の足元から客室バルコニーまでを緑で囲み、職人が生み出したアイテムを設えた客室「TOKYO CRAFT ROOM」や店内工房でカカオの選定から商品化までを行うチョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」など、手しごとを感じる要素が随所にちりばめられています。
また、ホテルと住宅棟とが隣接していて、住民の方はホテルのエントランスを自由に行き来できるんです。挨拶を交わしたり、成長したお子さんの姿に驚いたり。ホテルのイベントにもよく参加していただきます。そんな交流があるのも、このホテルならではのユニークな点だと思います。
―福島さんが着られているデニムジャケットも、ホテリエのユニフォームとしては珍しいですよね。
「手しごと」のコンセプトにマッチするようにデザインされたもので、手しごとで生み出された物もデニムも、経年変化を楽しめる。そんな思いが込められているんですよ。フォーマル感は保ちつつ、訪れた人が親しみを感じるようなカジュアル感も気に入っています。
―ホテルのコンセプトが詰まったTOKYO CRAFT ROOMが、福島さん一番のお気に入りの場所なんですよね。
この空間には、関わってくださった職人やデザイナーの数だけストーリーが詰め込まれている、そんなすてきな場所なんです。浜町にある表具店「経新堂」の稲崎知伸さんとオランダのデザイナーとの合作をはじめ、現在は全部で8つのアイテムがあります。
でも、まだまだ認知が追い付いていないと感じていて…。2024年の今年からは、TOKYO CRAFT ROOMの認知度を上げるために、デザイナーさんが発信できる拠点に切り替えていく予定です。ここをお披露目の場として利用することはもちろん、近隣の店舗などを絡めて、まち全体をギャラリーとして展開するのもいいかもしれません。“手しごと=日本橋浜町”となるベースをつくっていきたいんです。そして、TOKYO CRAFT ROOMをきっかけに、浜町を訪れる人が増えてくれたらうれしいですね。
―そこにはやはり、まちづくりという視点があるのですね。
空港からのアクセスが良いのでインバウンド需要が高く、6~7割が外国からのお客さまです。けれど、ホテルを起点に浜町の外に観光に行かれる方が多いんです。もっとこのまちを散策し、楽しんでもらう工夫をしていきたいと思っています。
日本橋浜町には「まちを良くしたい」という思いの輪が広がっている
―福島さんから見て、浜町はどのようなイメージですか?
衝撃だったのが、まちの方の受け入れ態勢!私たちのアイディアをお話しすると「いいですね!やりましょう!」と言ってくれるんです。我々のような新参者の意見に耳を傾けてくれる温かさに驚きました。古い伝統は残しつつ、新旧うまく融合させていこうとするまちの方のスタンスや気持ちが熱いですよね。
浜町界隈には居心地の良いお店もいっぱいで、よく利用するのが「常とん」という居酒屋さん。大将が顔を覚えていてくれて声を掛けてくれるのも嬉しいですし、地元の方だろうなというお客さんがワイワイしているのを見るのも楽しいんです。そろそろ帰ろうかなと思うと、お世話になっているまちの方に会って、終電を逃すなんてことも(笑)。
―まちとのつながりが、どんどん濃くなっているのですね!まちの方のご協力で実現したイベントもあるのでしょうか?
私がHAMACHO HOTELに来て初めて携わったのが3周年イベントで、まちの店舗の商品や利用券を景品とした「ガチャ抽選会」にご協力いただきました。
近日開催予定の5周年イベントでは、ガチャ抽選会をグレードアップ。約20店舗に参加していただき、景品はトータルで300も集まりました!
―ホテルを運営するなかで、まちづくりにも関わる。今後、浜町をどのようなまちにしていきたいですか?
ホテルとしてただ存在するのではなく、「浜町のまちごと楽しんでいただけるホテル」が私たちの目指すところ。宿泊者にも、まちのレストランやサービスを含めてホテルステイを楽しんでもらえる仕組みづくりやイベントを企画していきたいと思っています。
「浜町ってどこ?」という方がまだまだ少なくないので、最終的には誰もが知り、誰もが訪れたくなるまちになってほしいですね。
HAMACHO HOTEL
中央区日本橋浜町3-20-2
[取材日:2024.1.28]
写真:北浦汐見 文:濱岡操緒