レストラン ラグー 二代目 川島 靖喜さん
―日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。
今回登場するのは、日本橋蛎殻町で1983年に創業した洋食店「レストラン ラグー」の二代目・川島靖喜さん。ソースから一つ一つ手作りする料理はとっても種類豊富。家族四代に渡って通う人もいるほど、まちに愛されるお店です。お店の歴史やまちの変化についてお話をお聞きしました。
ラグーはもともと、シチューとピザのお店だった
―ハンバーグやオムライスといった定番はもちろん、夜は洋食をつまみにお酒を楽しむこともできる「レストラン ラグー」さんですが、創業当時はシチューとピザがメインのお店だったとか?
うちの母体は、日本橋の魚河岸で大正3年に創業した喫茶店『センリ軒』。昔はいまのトルナーレの下にも店舗があって、シティペンション・ゼムというホテルができるタイミングでうちの父に、「隣でホテルの朝食を出せるお店をやってほしい」という依頼があったんです。それでオープンしたのがこの店です。ホテルの宿泊者にモーニングを提供しつつ、シチューとピザがメインのお店を営業していました。
―おもしろい流れですね。現在の洋食店のスタイルになったのは何かきっかけがあったんですか?
僕がお店に入ってから洋食に力を入れ始めました。既製品のソースやスープを使わないので、仕込みはすごく大変です。
それでも手作りにはこだわりたくって。ほぼ創業当時から厨房にいてくれているベテランの料理人さんと一緒に、ずっと仕込みしています(笑)。
僕はお酒が好きなんですが、洋食店でお酒を飲むのっていいなと思ったんです。居酒屋よりは落ち着いた雰囲気で、レストランほどかしこまってないし。それでワイン、ビール、日本酒、焼酎などいろんなお酒も用意しています。
―料理のメニューもすごく多いですよね。お酒のお供におすすめの一品はありますか?
美味しいと言ってもらったものをメニューに残していたらこんなに増えちゃいました。
常に改良しているビーフシチューもおいしいし、お酒と一緒なら「サンビッツ」なんて珍しいんじゃないですか。軽くトーストしたパンに牛フィレ肉のステーキをのせたカナッペで、レモンを絞って食べるんです。ワインやビールにとっても合いますよ。
生まれも育ちも日本橋浜町。変わっても変わらず好きなまち
―浜町生まれ浜町育ちの川島さんから見て、このまちはどんな風に変わりましたか?
子供の頃の風景からはだいぶ変わりましたね。昔は戸建てがたくさん建っていて、窓から屋根を伝って隣の家に遊びに行けたんです。想像できないでしょ?子供にやさしいまちで、日曜日は昼過ぎまで道路を封鎖して遊べるようにしてくれてたり、よく路地で遊んでいた思い出がある。
いまは人口も増えて、まちの人が多種多様になった気がしますね。でも変わらないのは、まちの人がまちを好きだということ。交通の便はいいし、良い店もあるし、自分もずっと住んでいるから、やっぱり浜町が好きなんだろうなと思います。
―川島さんが好きなお店はありますか?
「中華そば 三浦」や「味いな村」の店主とはお互いの店を行き来する仲です。自分はあまりマメにご近所づきあいをするタイプではないんですが、彼らは年齢も同じくらいで同業なので気が合うんです。人として好き。飲食店の人間は忙しくて孤独になりがちなので、助け合える人は貴重だと思っています。
若い人もウェルカム。アットホームな「食堂」としてまちを応援したい
―創業40年ともなれば、家族で代々通ってくださるお客さんも多いのではないですか?
そうですね。孫だった子が親になって、ついに親子三代を超えて四代目が来店し始めていますよ。「お!通えるようになったのか!」ってうれしくなっちゃいますね。会社勤めの人も会食とかじゃなく、プライベートで同僚と来てくれたりするのがうれしいです。
たいした接客はしないけれど、気を遣わないのがいいのかな。アットホームな雰囲気でいたいし、友達や家族を連れてきたよって感じでわいわいしてくれるのが理想です。
―川島さんのリラックスした雰囲気がなんとも居心地がいいのだと思います。40年間まちに愛されてきた洋食店として、浜町はこれからどんなまちになっていけばいいと思いますか?
このままどんどん盛り上がっていってほしいかな。さびれちゃったらさみしいから、賑わいのあるまちでいてほしい。
僕としてもまちでがんばる若者のことは応援したいし、新しい人もどんどんまちに来てくれたらと思います。だからこの店も、誰が来店してもウェルカムな雰囲気にしておきたいです。
レストラン ラグー
住所:中央区日本橋蛎殻町2-16-9
営業時間:
月〜土 11:00-14:00L.O/17:00-21:00L.O
日・祝日 11:00-15:00L.O/17:00-20:00L.O
定休日:年末年始・お盆
[取材日:2024.3.25]
写真:北浦汐見 文:井上麻子