ベスパ東京日本橋 チーフ・エンジニア 菊地信康さん
―日本橋浜町。かつては、広大な武家屋敷が広がっていた古くから続く江戸の街。歴史と伝統を受け継ぎながら、変わりゆく街の息遣いを、そこで働き暮らしを営む人々の言葉を通して魅力を紐解きながらお届けします。今回は、1980年から浜町でイタリアのスクーター、ベスパを中心に販売とメンテナンスを行なっている「ベスパ東京日本橋」のチーフ・エンジニアとして20年近く働かれている菊地信廉さんにベスパへのこだわりや、街の変化についてお聞きしました。
ー浜町でお店を始めてどれくらいになるのでしょうか
元々この場所は今の社長のお父さんが、自動車の整備や修理をするお店をやっていたそうです。お父さんもベスパが好きだったようで、当時からベスパを扱っていたと聞いています。そのうちお父さんが亡くなられて、今の社長が二代目として引き継ぎました。しばらく自動車の整備や修理をして自動車とベスパ両方扱っていたのですが、段々と車業界の景気が悪くなり、社長もベスパが好きだったので、ベスパ一本に絞ったかたちに業態を変えて、現在に至ります。僕も、もともとベスパが好きで、最初は客としてここに通っていました。好きなことを仕事にしたくて、この店に就職し、かれこれ20年になります。
お客様は北海道から九州まで、ベスパユーザーの駆け込み寺
ーベスパの専門店ということしょうか?
そうですね。ベスパの販売はもちろん、修理・メンテナンスを主に行っています。ベスパはイタリアのスクーターなのですが、特殊な部類に入るので、壊れても普通のオートバイ屋では中々直せない事が多く、専門知識が必要なんです。部品も独自のルートがあるので、簡単には入手出来ません。うちは20年近くベスパ専門でやっていますので、インターネットの掲示板やSNSで、店に来てくれた方が書き込みをしてくれて、それを見た方々がわざわざ来てくれたりしています。ベスパの事で困っている方々の駆け込み寺的な感じになっていますね。
修理で来店されるお客様の多くは、うちの店で購入された方よりも他店で購入されたお客様が多いです。
修理の依頼で北海道や九州からベスパを送って来る方もいらっしゃいます。
バイクって、乗る人によって使い方が違うので、修理する時もその人の使い方を見極めて、そのバイクに合った修理の方法を考えます。整備や修理の流れとしては、まずバイクをお預かりして、お客様にヒアリングをして、最後に自分で乗ってみます。実際に乗るとお客様が悩んでるポイントが大体わかるんです。それから修理に入ります。
<
ーお店にはどんなお客様が多いですか?
昨今、バイク人口が昔に比べて減ってきているのと、都心部は駐車禁止エリアがものすごく多く、そうなると通勤では使えないので、ユーザーの方の多くは趣味での嗜好品のようなものになってきていると感じます。
ベスパといえばイタリアです。「ローマの休日」や「探偵物語」で使われているのが有名ですよね。映画などの影響でお洒落なアイテムというイメージが強いみたいです。そういうカルチャーに敏感な他人と差をつけたい、少し個性的なお客様が多いかもしれませんね(笑)。
僕も通勤で毎日ベスパに乗っていますが、普通のスクーターと違って、ペットを飼っているような感覚なんですよね。愛着が湧くというか。
毎日乗っていると日によって機嫌が違うと感じたり…。今日は何だか操作固いなとか、かと思えば調子良く走る日もあったり。僕は四台持っているんですが、それぞれ性格が違うように思います。好きな方は僕のように数台所有している方が多いですね。もしくは一度ベスパに乗ると、それ以降もずっとベスパを買い続ける方が多いです。ヨーロッパの文化のせいか、一度デザインを作ったら同じものを長く使うんですよね。
日本のスクーターだとモデルチェンジなどでデザインが変わるじゃないですか。ベスパにはそれがない。マイナーチェンジはありますけど、基本のベースは変わらない。もうデザインは完成している、という自信なのでしょうね。
ー浜町で働いて20年とのことですが、街の変化を感じることはありますか
僕が客で店に通っていた20年前くらいは、本当に東京の下町というイメージでした。店の向かいのマンションは、蒟蒻やちくわを製造する練り物の工場でしたし、トルナーレの場所は珈琲屋や紙のお店だったり商店が沢山ありました。一階がお店で二階が住居という昔ながらの建物が多かった印象です。昔と今では景色がまるで違いますよ。洗練された街になってきましたよね。
昔から住んでいる方も多いので、外で見かけたら挨拶して、そこから話が盛り上がってつい長話してしまったり…。そういった下町らしい人の雰囲気もまだ沢山残ってます。
ー入り口に「はまっぷ」を置いていただいてますね!
点検とか修理で来店されると待ち時間が出来てしまうので、お客様に「はまっぷ」をお渡ししているんです。遠方から来られる方が多いので、せっかくならこの街を知って帰ってもらいたいじゃないですか。初めて浜町に来られる方も多いので、散策してみると面白いみたいですよ。下町風情があってお店も多いので楽しんでいただけてるようです。
ー浜町で好きな場所があれば教えてください
普段お昼ご飯を買いに行く時ぐらいしか、出歩かないので…。食いしん坊みたいで恥ずかしいですが、好きなお弁当屋さんは沢山ありますよ!
浜町公園の近くの「こがね弁当」や「ハトヤ」さんによく行きます。あとは兜町方面にある500円弁当の中華料理屋さんとか、ビリヤニ弁当が美味しいインド料理屋さんもよく行きますね。この辺りは何気にお弁当屋さんが充実しているんです。
あとは…すごくマニアックな話になりますが、箱崎ジャンクションの道がぐるぐるしてる高速の出口が地味に好きです(笑)。
T-CATのバス専用出口と思われがちなので、意外と知ってる人は少ないかもしれないです。一般車も入って大丈夫なんですよ。
新しい住民の方も地元の方も居心地の良い街に
ー今後浜町に期待してることがあればお聞かせください
昨今、マンションが増えて新しい住民の方が増えてきたお陰で、少しずつ街に活気が出て来ていると感じます。夜の飲み屋さんや、ご飯屋さんも増えましたしね。昼間や休日もゆっくりできるスペースがもっと増えたら街の活性化に繋がりそうですよね。特に小さいお子様が多いので、その子たちのお母さんたちが寛げるような場所がもっと沢山あっても良いのかなと思います。ちょっとお茶したり遊べたりするような。新しい住民の方も、そうでない方も楽しめる居心地の良い街になってほしいと思います。
お店のホームページや雰囲気が分かる動画がありますので
ぜひこちらもご覧ください!
ベスパ東京日本橋
http://www.vespa99.com
REIVLOG
https://www.youtube.com/watch?v=cEvjRt0I-24
[取材日:2018.12.21]
写真:丸山智衣 文:小野彩