濱甼髙虎 職方 高林晋さん
—日本橋浜町。かつては、広大な武家屋敷が広がっていた古くから続く江戸の街。歴史と伝統を受け継ぎながら、変わりゆく街の息遣いを、そこで働き暮らしを営む人々の言葉を通して魅力を紐解きながらお届けします。今回は日本橋浜町で1948年に開業した「濱甼髙虎」の職方・高林晋さんを訪ねました。江戸後期に創業した染元「紺屋」の技術を受け継ぎ、半纏や暖簾、手ぬぐいや袋物などを仕立てる昔ながらの手仕事へのこだわりや、街の魅力についてお聞きしました。
江戸の技術を守り続ける、日本橋の「職方」
ーまず、濱甼髙虎のお仕事について教えてください。
大きく分けて2通りあります。1つは、お客様からご注文をいただき、お店の暖簾や町会で着るお祭りの半纏、手ぬぐいをあつらえる仕事。個人の方からいただくこともあれば、町会さんやお店からご注文いただくこともあります。もう1つは、浜町公園に面した店舗で販売する髙虎オリジナルの商品作りです。それぞれに染めや縫製の工程が関わってくるので、それに携わる職方さんにお願いしたり、ものによっては自分で染めたり、縫製したりすることもあります。
ー現在は3代目と伺いました。
初代は呉服卸商としてスタートし、絹物を主体とした呉服の反物を扱っていました。2代目の時代になって、木綿を中心としたお祭りや商売で着る半纏やのれんなど日常で使える小物を扱うようになりました。時代とともに着物を着る機会がずいぶん減ってきて、ものづくりの技術をそのまま生かして、より普段使いできるものにシフトしていったんだと思います。3代目の今も同じ形で、代々続いてきた技術をより多くの方に伝えるために、試行錯誤しながらやっています。
ーやはりこの界隈には職人さんが多いでしょうか?
日本橋という街は、糸へんに携わる商売をしているところが数多く残っているのが特徴的です。かつては工程が細かく細分化されていて、それぞれ分業していました。私たちの仕事では、図案を書く人、型を彫る人、型にメッシュを張る「紗張り」をする人、染める人、仕立てる人が別々にいたんです。ただ、時代が進むにつれて、ニーズの変化や高齢化の影響などがあり、職方さんはずいぶん減ってしまいました。今では図案を書いたり、型を彫ったり、工程のいくつかはうちでやるようになっています。
ーかなり細かい図案も手がけられているんですね。
基本的に、ほとんど手作業で進めていきます。コンピューターはほとんど使いません。すごい進歩だし、肯定はしているのですが、苦手なんですよね。まっすぐの線を彫るときも、定規は使いません。訓練すればまっすぐに線を彫れるようになりますし、コンマ数ミリの歪みも味になるんです。そういった作業を経ることで、作ったものに気持ちが込められる。そういう部分を大事にしたいと思っていますし、そこに魅力を感じています。
ー手作業ならではの良さとは、どのようなものでしょうか。
作ったものに込められた温度だと思います。手作業で作ったものも、コンピューターで作ったものも、人間が介在して作ったものには変わりはないのですが、出来上がったものはずいぶん違うように感じます。プリントしたものは確かに綺麗な反面、なんだか味気ない。手作業で作ったものは、角が丸かったり、少しかすれがあったり、どこかあたたかみがあるんです。作り手の気持ちが宿っているというか…。もし、すべてのものが先進的な手法で作られてしまうようになったら、すごく寂しいと思います。上手に役割分担をして、先進的なものを作る人たちと、私たちのような昔ながらのやり方を続ける人たち、両方が必要だと思います。
飛び込めば受け入れてくれる、懐の深さがある街
ー高林さんは、浜町で働いてどれぐらいになるのでしょうか。
私自身は浜町で生まれて育ったわけではないのですが、ここで働いて25〜6年になります。働き始めた頃は、修行の身だったこともあり、この街に住む方とじっくり話をする機会もなくて、ひたすら仕事をしていました。ここ10年ぐらいで街の温度を感じられるようになってきて、町会の行事にも少しずつ参加させていただくようになりました。青年部や婦人部、商店会の方々とお付き合いさせていただいているのですが、人のつながりがあたたかくて、心地良いんですよね。普段は郊外に住んでいるのですが、下町がうらやましいです。この街で生まれ育ったわけじゃなくても、街のことに興味を持ってくれた人なら、快く受け入れてくれる懐の深さがあります。人情味が厚い分、口うるさいとか思われることがあるかもしれないのですが、そういった人と人との繋がりが、この街の魅力なんだと思います。
ーこれからの浜町に期待することはありますか?
何かを変えていくというよりも、今まで大切に受け継いできたものを、うまく伝え続けていけたらいいですね。この街らしさが消えないでいてくれたら一番いいです。逆に、変わらないことが大変なのかもしれません。私たちの仕事も同じようなもので、先人たちが積み重ねてきたものを、今の時代に合うように繋げていくことが重要です。若い人たちや新しく住まれる人が、この街をいいと思ってくれて、どんどん楽しんでくれたらいいですね。
濱甼髙虎
http://www2.gol.
〒103-0007 東京都中央区日本橋浜町2-45-6髙虎ビル
電話:03-3666-5562
[取材日:2018.6.25]
写真:鈴木優太 文:本村友希