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寺尾靴商会/日本橋浜町商店街連合会 会長 寺尾昭臣さん

日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。

日本橋浜町中の橋の交差点から程近い、新大橋通り沿いに佇む小さな靴や。「寺尾靴商会」がここ浜町で商売をはじめたのは戦後すぐのこと。店主の寺尾昭臣さんは、一昨年、日本橋浜町商店街連合会の会長に就任。このまちに暮らし、店を構え、まちづくりに深く関わる寺尾さんに仕事への想い、まちへの想いを伺いました。

靴屋は作る楽しさも、修理する楽しさも味わえるのがいい

寺尾さんはおじい様、お父様の跡を継いで3代目として「寺尾靴商会」を営んでいらっしゃいます。日本橋浜町に住まい兼店舗を構えたのは戦後とのこと。

祖父が最初に靴屋をはじめた場所は、文京区本郷と聞いています。戦後におやじが浜町の今の場所に土地を購入。私が23歳のときです。

いちばん古い記憶の浜町は、明治座のあたりはまだ焼野原。浜町公園は引揚者の住宅が立ち並び、フェンスに囲まれた米軍のプールもありました。外からプールに向かって石を投げてはよく怒られていたな(笑)。

家には何人もの職人が住み込みで働いていて、いつも賑やか。今では家も店も様変わりしたけれど、当時と変わらないのは、大切に使い続けている足踏みミシンくらいでしょうか。

お店には、お父様が作られた革靴が大切に飾られています。

おやじはとても研究熱心でね。スキー靴やスケート靴など、なんだって作っていました。女性用のブーツが流行していると聞いたら、売っている店に行って、どんなものなのか見に行き、戻ってきたら黙々とブーツを作っていたりね。お店に飾ってある靴も縫い目がとても細かいでしょ? まさに職人技ですよね。近くに住んでいた力道山の靴も父が作っていたそうです。数年前に家を建て替えたときに、たくさんの木型が出てきて。ありとあらゆる形の靴をおやじは作り上げてきたんだなと改めて感心しました。

そんなお父さまの姿を見て、ご自身も跡を継ごうと思われたのですね

おやじの仕事を手伝うようになったのは大学に入った頃から。手伝いながら靴づくりを覚え、気づいたら店を継いでいました。どこででも簡単に靴が買える時代に、靴はうちでと決め、30年以上通ってくださるお客さんもいます。本当にありがたいですよね。うちも修理がメインになったけれど、気に入った靴を長く大切に履き続けるお手伝いができるのもありがたいことです。

通りに面した扉に「履きなれた靴は修理して 捨てる時代から直す時代」と書かれたポスターが貼ってあります。目にも心にも留まる言葉です。

モノを大切に使い続けるって大事なことですからね。先日も学生さんがすり減ったかかとを直して欲しいと来店されて。修理のついでに擦れて色がはげている部分を染め直してお渡ししたんです。そうしたら、「わぁ!新品みたい!」と目を丸くして喜ばれて。そんなやりとりも楽しくてね。靴のオーダーを受けたときなんかは、「最高の靴を作ってさしあげよう」と気持ちに力が入る。足を採寸し、お客さんと一緒にデザインを決め、それに合う革を選ぶ。ゼロからひとつひとつ積み上げて無二の靴を作る喜びは他では得られないものがあります。作る楽しさも直す楽しさも味わえる。それがあるから今もこうして靴屋を続けられているのかもしれません。

子どもが安心して遊び、学べるまちを守っていきたい

お店を切り盛りする一方で浜町商店街連合会会長も務め、商店会のまとめ役としても活躍されています。

昭和28年に創立された浜町商店街連合会は中央区の中でも歴史は古いほうです。新大橋通り沿いも昔は金物屋に割りばし問屋、洋服の仕立て屋などいろんなお店があってね。夏休みや冬休みの時期になると、商店会でバスを貸し切って、夏は奥多摩で魚釣り、冬はスキーなど家族連れのツアーによく行っていました。その頃のようにとはいかないまでも、横のつながりはしっかりと保ちたいと思っています。私はもう年配になって動きもきかなくなっているのですが、その代わり、商店会の若い世代の方たちが本当に一生懸命やってくださるのでとても助かっているんです。

今年2月に開催された浜町商店街連合会主催の「浜町大抽選会」は大盛り上がりでした!

コロナ禍で表立ったイベントができない代わりに楽しんでもらうことをと、誕生した企画だったのですが、おかげさまで、応募総数は6千通以上。うちのお店にも応募用紙を手に初めてお見えになる方が何人もいらっしゃり、私たち店側も大いに楽しませてもらいました。4月には久しぶりに浜町マルシェも開催され、秋にはハロウィンイベントも行う予定です。移動商店街などでまた、まちの皆さんと大いに関われたら嬉しいですね。

浜町の魅力はどんなところにあると思いますか?

一見、まちも様変わりしたように感じるけど、お気に入りの場所は変わらず残っているところでしょうか。例えば、小さい頃によく遊んだ浜町公園は、今も大切な憩いの場です。うなぎ料理のあさださんなど、昔から馴染みのお店も残っているのがありがたいですね。

今後、浜町をどんなまちにしたいとお考えでしょうか。

人と人の触れ合いがたくさんあるまちにしたいですね。私はこのまちの人たちみんなに育ててもらったようなもの。小さい頃はやんちゃでよく友達といたずらをしたり、けんかもした。そのたびに、そこに居合わせた大人たちに叱られました。叱られただけじゃなくて、「寺尾くん、これをガリ版に刷ってもらうことできるかな?」なんて頼まれごとをし、そのご褒美にお小遣いをもらったことも。

葬式の手伝いをしたときに、目上の方に「ご苦労様です」と言ったときには、近くにいた年配の方が「目上の人に労いの言葉をかけるときは『おつかれさまでした』と言うんだぞ」と教えてくれました。家や学校だけじゃなく、まちの大人たちが子どもたちを気にかけてくれていたんだよね。

本当だったら、自分がやってもらったことは次の世代に自分がやってあげるのが筋。けれど、「時代が変わったから」と、よそさまの子どもたちにあえて声をかけることは少なくなった気もします。でも、それじゃいけないんですよね。子どもにとっては、親以外の大人と接する機会をもつことも必要。

安心して子どもが遊び、いろんな人と関わり、学べる場をつくることが我々の役目だと思っています。

 

寺尾靴商会

住所:中央区日本橋浜町2-24-9

電話:03-3666-5912

営業時間:月~土 11:00~19:00

定休日:日・祝

[取材日:2022.4.7]

写真:北浦汐見 文:堀 朋子

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