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経新堂 稲崎 稲崎 知伸さん

―日本橋浜町。かつては、広大な武家屋敷が広がっていた古くから続く江戸の街。歴史と伝統を受け継ぎながら、変わりゆく街の息遣いを、そこで働き暮らしを営む人々の言葉を通して魅力を紐解きながらお届けします。
今回は江戸時代、天保年間から続く表具店「経新堂 稲崎」の稲崎知伸さんにお話を伺いました。

江戸時代、大経師の称号を得た随一の表具店

ーお店の外に「大経師」と大きく書かれた看板がありますね。

昔は表具屋のことを経師屋と呼んでいたそうで、大経師というのは経師の筆頭格として朝廷に仕えた経師のことです。うちは江戸時代に大経師の称号を頂きまして、名字帯刀を許されてお城に出入りをしていたみたいです。(私の知る限りでは、)同じ表具屋さんの中でも、大経師を名乗っているのはうちだけです。

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ー表具師さんとは具体的にどのようなお仕事なのでしょうか。

掛け軸、額、屏風などの表具を、お客様のご注文によって製作したり、古いものの修復やシミ抜きをし、仕立替えをして新しくするというのが、表具師の仕事です。その中でもうちは古い美術品や工芸品の保存修復を得意としていまして、例えば美術館に保存されているような作品をメンテナンスして蘇らせたり、後々100年くらい手付かずでも保存ができるような形に修復をしたりしています。

ー掛け軸はどのように作られるんですか?

まず掛け軸のメインとなる作品がひとつあって、それを掛け軸に仕立てていく訳ですけど、その作品に対してどういう裂地(きれじ)を取り合わせていくかを考えます。表具屋のセンスが問われるところですよね。その次は裏打ちといって5枚くらいの和紙を打ち重ねていき、一枚の紙にしていく。それらを組み合わせて、ひとつの掛け軸が完成します。なので同じ絵でも表具師さんによってまったく違う雰囲気の掛け軸に仕上がるわけです。

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ー浜町を拠点にしている理由があればお聞かせください。

創業が江戸時代で、その当時は大工町といって今で言う日本橋二丁目、「高島屋」さんの向かいの「丸善書店」さんのちょうど裏手で創業しました。ですがそこは空襲で焼けてしまって、その時に私の祖父が今の浜町の土地を見つけてこの場所に移転したのがはじまりです。浜町というのは昔からの花街なので、江戸文化もあって表具店を構えるのに適している街だと今は思います。

ー浜町マルシェや人形町のてんてん祭にも関わっていらっしゃると聞きました。

浜町商店街連合会というのがありまして、そこにうちもお店として加盟をしています。商店街連合会の中で僕は渉外の担当をやらせていただいているので、浜町マルシェさんや近隣の商店街さんのお祭りに出向いて行ったりなど、色々と活動しています。8月にも浜町公園でサマーフェスティバルが行われるので、商店街でブースを出してオリジナルフードや商品を販売する予定です。このようなイベントに参加しながら、浜町の街のPRもしています。人形町さんのようにアーケードがあるような商店街とは違って、ここは個店が点在しているので、軒を連ねてはいないけれど、大体のものはこの商店街で全て揃うんです。昔からこの街に住んでいる方は、どこに何が売っているか分かると思うんですけど、新しく越してきた方々は知らないじゃないですか。なので、例えば野菜や魚は八百屋や魚屋ではなくスーパーで買ったりだとか、家の電気や水道の故障があると、マンションの管理組合が斡旋している業者にお願いしたりしていますね。それはそれでもちろん良いんですが、おそらくお値段も‥多少高いでしょうし、我々職人たちが近くに住んでいるわけですから、何かあればすぐにかけつけられるんです!商店街は食べ物屋さんだけではなく、我々のような職人もいますので、そういったことも住民の方々にPRをしています。

昔も今も程よい連体感で粋な地元民

ー浜町に長くお住まいですが、街の変化などは感じますか?

すごい変化してますよね(笑)。
僕はここで生まれ育ったんですけど、僕が小学校低学年ぐらいの時には「明治座」さんの周りには料亭が建ち並んでいて、夕方学校の帰り道には必ず白粉姿の芸者さん達とすれ違っていました。そういう文化もだんだん衰退していき、料亭も少なくなって、料亭の跡地がマンションやビルになったり。ただこの街には僕のように昔から住んでる方も多いので、そういった文化を知っている方が多いからか、やっぱり皆粋な考え方を持っていますよね。なので、この街の人たちとのお付合いは楽しいですよ。横のつながりが強くて、新しい人たちが来ても、よそもの扱いをしないので、程よい連体感もあって住みやすい街です。だからこの街に越してこられて地元の人達とお付き合いをすると、この街から離れたくないって言ってくれています(笑)。

ー浜町で好きな場所があれば教えて下さい。

この辺は都会のど真ん中ですけど、隅田川という大きな川もあるし、中央区の大きな公園もあったりして自然が非常に多い街ですよね。この時期は散歩がてら川まで歩いて夕涼みに行ったり。それから、この辺は下町ですから良い飲み屋さんも多いんですよ。

ー今後浜町に期待していることがあればお聞かせください。

うちもそうですが、他にも伝統工芸品を扱っているお店がたくさんあるんですが、意外と知られていないお店が多いんです。例えば宮内庁の厨房設備を作っているお店も浜町にありますし、古く伝わる伝統芸能、日本舞踊のお稽古をつけているところがあったり。そういった伝統工芸、伝統芸能が昔から根付いてる街なので、それらと新しくできたお店が共存していくことを望んでいます。
そういった文化の発祥地として、現在までこういう文化を大事に守ってきた街なので、これからもそうあり続けて欲しいなと思います。

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経新堂 稲崎
http://www.kyoushindo.com
〒103-0007
東京都中央区日本橋浜町2-48-7
電話:03-3666-6494
[取材日:2017.7.12]
写真:山﨑瑠惟 文:小野彩

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