HAMACHO.JP
  • about
  • contact
  • privacy policy
大 小

ブーランジェリー・ジャンゴ 川本宗一郎さん・奈津子さん

日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。

今回は、20195月に浜町にオープン以来、まちが誇れるパン屋として多くの人に親しまれている「ブーランジェリー・ジャンゴ」の川本さんご夫妻にインタビュー。もともと江古田で評判だった人気店が突如、日本橋浜町に移転。パン好きの間でも話題になった、「なぜ、川本夫妻は日本橋浜町を新天地に選んだのか」に迫ります。

夫婦で目指した、まちに愛されるブーランジェリー

おふたりはそれぞれ異業種からパン職人になったそうですね。

宗一郎さん(以下敬称略):僕は20代半ばまでフラフラしていて。一時はデザイナーの仕事をしていたのですが長く続かなくて。このままではダメだと、千葉のパン屋に弟子入りして、あえて自分を追い込んだのが最初。親方が厳しくて、過酷な毎日でした。それでも、耐えられたのは、小学生の頃に暮らしていたパリで食べた、あの美味しいバゲットの味を自分で再現したいという強い想いがあったから。

奈津子さん(以下敬称略):私は幼稚園の先生をしていました。やりがいのある仕事だったのですが、モノ作りの世界に興味を持って23歳で大手ベーカリーに転職しました。主人と出会ったのはそれから4年後。知り合いがオーナーを務めていたベーカリーに遊びに行ったときに、そこで働いていた彼とたまたま駅まで一緒に歩いたのが運の尽き()

奥さまとの出会いで大きく人生が変わったのですね。

宗一郎:そりゃ、「いつかは自分の店を」という思いを一緒にカタチにしてくれたのですから。

奈津子:彼の味覚、クリエイティブセンスは素晴らしいんです。出会ったときから、自分は彼にはかなわないと思っていました。とはいえ、最初の頃は日々、ぶつかっていました。

それぞれにキャリアを積んだ職人同士であり、夫婦でもありというのは、距離感も難しそうです。うまくやっていける秘訣はなんですか?

奈津子:目指しているもの、美味しいと思えるものなど、価値観が同じということが大きいんだと思います。

宗一郎:自分がお店を出すときは、バゲット、クロワッサン、カンパーニュが並ぶ、ブーランジェリーにすることは最初から決めていたんです。お店を出す場所も、気取ったまちではなく、住民の暮らしに寄り添える場所と思っていて。そのイメージも共有していました。それと、1年に1回はふたりでパリをはじめとする外国に旅行し、目と舌を肥やしながら、自分たちをブラッシュアップさせる。そうした経験の共有も大切にしています。

奈津子:「あの国のあのお店で食べた、あの料理!」と言って、「分かった、あの味ね!」とすぐに分かり合えるのは本当に大きい!

パン屋としてこのまちで骨を埋めたい

2010年に江古田でお店をオープンし、瞬く間に人気店に。それから9年後、なぜ、日本橋浜町へ移転を?

宗一郎:実は、この浜町・人形町エリアは江古田にお店を構える前からいつか出店したいと思っていた場所なんです。というのも、父親の事務所が蛎殻町にあって、高校生の頃に手伝いでしょっちゅう来ていましたし、結婚後、ふたりで最初に暮らしていたのも人形町。江古田で9年間、しっかりと実力を付けて、いよいよ本命のまちへ!と。

本命とは、嬉しいです。実際、浜町にお店を構えてみて、感じることはどんなことでしょう。

奈津子:住んでいる人も、働く人も食に対しての経験値がかなり高い。たとえば、パネットーネというイタリアの伝統的な発酵パンを焼いているのですが、販売のパートさんも「パネットーネって、朝食に食べても美味しいですよね!」などと、すぐに返ってくる。お客さまもしかり。外国人のお客さまも、海外で暮らした経験のある方もとても多いのも浜町ならではです。

まちの人からしてみれば「こんなパン屋を待っていた!」というのが本音だと思います。

宗一郎:そう思って頂けていたら嬉しいです。実際、開店から2年経っても、1日に300人前後のお客さまにいらして頂けていて。客層も老若男女分け隔てない。皆さんにまちのパン屋として認めてもらえたのかなとは思います。

住まいもお店の近くだとか。一住民として、このまちはどんな印象ですか?

奈津子:隅田川もあって、空も道路も広々としていますよね。都心でありながら、ゆったりとしていて。住み心地のよさはバツグンです。

宗一郎:浜町って、都心なのに、ギラギラしていなくて、歴史のあるまちならではの落ち着きがある。それでいて、浅草などの下町にもすぐに行けるという、他にはないレアスポットですよね。欲を言えば、もっと個人店が増えたらいいなと。トルナーレやFタワーなどオフィスビルの1階に誰もが気軽に入れる個性的なカフェがあったら嬉しい。

川本さんたちのように、「浜町で挑戦してみたい!」という方たちのお店が次々に出来たら嬉しいです。

宗一郎:そのためにも、まずは僕たちがこのまちでやっていけるという実例を示すことが大切だと思っているんです。僕らはね、ここ浜町で骨を埋める覚悟でやっているんです。自分たちがこのまちに愛着を持ち、まちにも愛され親しまれ、お互いに刺激を与え続ける存在になりたい。そのためには、僕たちもある程度マイペースでいることも大事。今も週休2日で年に1回は3週間程度の休暇を設けています。そこでちゃんと身体と頭をリフレッシュさせて、新しいことを吸収し、常に新鮮なジャンゴを楽しんでもらう。それって、とても重要なことだと思うんです。

骨を埋める覚悟。なんと重く、ありがたい言葉なのでしょう。まちと長いお付き合いになるからこそ、マイペースでいることも必要ですね。

奈津子:人と人との付き合い方にも共通しますよね。相手に要求してばかりでは息が詰まって、どちらかが疲れちゃう。「理想とするまちを作ろう」とみんなが同じ方向を見て、お互いを許容し合うことは、私たちの店づくり、あるいは夫婦や家族の付き合い方と同じだと思います。

ジャンゴのパンがいつも美味しく、新鮮で、飽きない理由が理解できた気がします。そんなお二人の浜町でおすすめのお店があればぜひ、教えてください。

宗一郎:トルナーレの裏手にある天鴻餃子房さん。美味しくて、値段も手ごろで、すぐに出てくるのがいい。

奈津子:「餃子食べて帰ろうか」が仕事終わりの合図になっているくらい、私たちのルーティンに入ってますしね()

まちのパン屋にまちの中華屋。なじみの店がある安心感は計り知れません。

宗一郎:浜町は住む人も働く人も出入りが多いまちですよね。でも、美味しいお店があれば、人は必ず帰ってきてくれます。「あの味が恋しいな」と思える記憶をつくることも僕たちの役割かもしれません。

奈津子:そのためにも腰を据えて、このまちが素敵に変化していく様子を皆さんと一緒に楽しんでいきたいです。

 

ブーランジェリー・ジャンゴ

インスタグラム:@b_django

営業時間:8:30-18:00

定休日:(水)(木)

東京都日本橋浜町3-19-4

電話:03-5644-8722

[取材日:2021.8.19]

写真:北浦汐見 文:堀朋子

PAGETOP