東京洋菓子倶楽部 会長 木村ヨシ子さん
―日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。
今回お話を伺ったのは、1987年に金座通り沿いにオープンした洋菓子店「東京洋菓子倶楽部」の会長・木村ヨシ子さん。おそらく浜町で初めての洋菓子店としてオープンした同店。洋菓子がある風景を通して見てきた浜町の移り変わりや、噂の名物モンブランの秘密まで、いろいろと聞かせていただきました。
日本橋浜町の人に支えられて人気者になったまちの洋菓子店
―「東京洋菓子倶楽部」はいつ日本橋浜町にオープンしたんですか?
今年で創業34年になります。1987年5月に市川からこちらへ移転してきました。お陰様で、お店も私も年を重ねました(笑)。市川でも洋菓子店をやっていたのですが、このビルを建てる時にテナントに入らないかと誘っていただいて。
―他の土地から移ってこられたんですね。当時の浜町はどんな様子だったんですか?
まだ静かでしたよ。とはいっても当時からオフィス街であり、仕舞屋さん(古いお家)はたくさんありました。この界隈は、古い方は100年以上前から住んでいらっしゃいますから。ケーキ店としては、ここら辺ではうちが最初だったんじゃないでしょうか。
―見知らぬ土地でのお商売は心細くなかったですか?
当時は私もまだ若かったので、地域の皆さんが応援してくださいました。住民の方のお誕生日や記念日はもちろん、企業の方がお土産用にお菓子を買ってくださったり。うちが開店した頃は、まだ柳橋辺りにいくつか料亭があって、パーティ用のデコレーションケーキを配達したりもしました。近くには明治座があるので楽屋にお届けしたりもします。
―浜町の人に支えられてきたんですね。
本当に感謝しています。今はオフィスが移動してマンションが増えたので、住民の方がすごく増えましたね。「ずっとここのケーキで育ったんだよ」と言ってくださる方がお子さんを連れてきてくださったりすると、とっても嬉しいですね! お誕生日ケーキのご予約の短冊を数えるのが、毎日の楽しみです。
ほかでは食べられない、名物モンブラン。
―お店の一番人気が「モンブラン」だとお聞きしました。形がちょっと変わっていますね。
茨城県笠間産の渋皮栗を使ったペーストを職人が丁寧にのばして外側にのせた、三角形のモンブランです。中には生クリームとカスタードクリームを1:1でミックスしたクリーム、土台はロールケーキになっています。ロールケーキのカステラにはバターではなくグレープシードオイルを使うことで、健康にも配慮しているんですよ。
―他では見たことがないです。どのようにしてこちらのモンブランができたのですか?
40年近く前に、イタリアのミラノのお菓子店で見たお菓子がきっかけでした。それは栗を使ったお菓子ではなかったのですが、日本人の口に合うモンブランを作りたいと思って、たどり着いたのがこれだったんです。ファンが多くて、40個50個と注文を受けることもあります。
―食べてみると、和菓子のような味わいもします。クリームたっぷりでおいしいです。
甘すぎず、しっとりとした食感が特徴です。実は隠し味でホワイトチョコレートも入っているんですよ。主人がショコラティエで、うちはもともとチョコレートがメインだったんです。主人は日本にトリュフショコラを広めた人で、ファーストクラスの機内食に採用されたり、上皇様も召し上がったことがあるんです。
―チョコレートも食べてみたいです。ほかはどんなお菓子がおすすめですか?
米粉を使ってクリームに栗を入れた「金座ロール」や、おもたせにも便利な「浜町ち~ず」も人気がありますね。毎月3回、6のつく日はロールケーキが20%オフになるので、ぜひお試しいただきたいです。
―食器はウェッジウッド、店内の内装もヨーロピアンでおしゃれですね。
シャンデリアとステンドグラスはベルギーから取り寄せました。すこし凝りすぎちゃった(笑)。旦那さんがチョコレートの仕事でヨーロッパを周っていたり、私も好きなので、ヨーロッパ風のインテリアにしたかったんです。店内でお茶もできますので、ぜひ立ち寄ってください。
100年後も浜町のハレの日を飾る洋菓子店でいたい
―木村さんが思う、日本橋浜町のいいところはどんなところですか?
人がみんなあたたかいところです。神田祭やお餅つき、婦人部会など町内の活動も多いので、率先して参加しています。そういうのが大好きなんです。ご近所と顔をあわせる機会が多いので、どこのおばあちゃんが具合が悪いとか、そういうこともすぐわかるし助け合えます。婦人部の集まりなんかにたまにケーキを差し入れると、お返しにまた何かくれたりして。お付き合いが楽しい町です。
―よく行かれるお店や好きな場所はありますか?
お散歩が好きなので、隅田川沿いの散策コースや薬研堀あたりが好きですね。そのあたりも商店街になっていて楽しいです。最近オシャレなお店がどんどんできてきていて、お隣のイタリアン「トラットリア コッレ」さんも美味しくて人気ですよ。洋菓子店もずいぶん増えてライバルも増えましたが、すごくいいことだと思います。お客様もご近所も信頼関係を大切にして、うちも100年続く老舗を目指して頑張っていきたいです。
東京洋菓子倶楽部
東京都日本橋浜町1-1-12 プラザANSビル1F(金座通り沿い)
電話:03-3865-4649
[取材日:2020.11.10]
写真:鈴木優太 文:井上麻子