富士屋本店日本橋浜町代表　加藤雄三さん

―日本橋浜町。かつては広大な武家屋敷が広がっていた、古くから続く江戸のまち。歴史と伝統を受け継ぎながら変わりゆくまちの息遣いと魅力を、このまちで働き、暮らしを営む人々の言葉を通して紐解いていきます。

今回お話してくださったのは、浜町中ノ橋交差点にある立ち飲みビストロ「富士屋本店日本橋浜町」を率いる加藤雄三さん。おいしい料理とワインを求め、夜な夜なこのお店に集う浜町の大人たちを「日本一いいお客さん」と呼ぶ加藤さん。いち飲食店の枠を超え、街の新しい空気をつくってきた彼らが感じている、日本橋浜町の魅力とは？

母体は酒屋さん。和テイストなビストロ料理とワインを楽しむ大人の酒場。

―新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の解除を受けて６月1日に営業再開されたとのことですが、お客さんの反応はいかがでしょうか？

お陰様で、再開直後からたくさんのお客様にご来店いただいています。4月1日から2ヶ月間休業していましたが、いまはコロナ対策を意識しながら、精一杯の気持ちで営業させていただいています。

―お料理もワインもメニューが豊富ですね。

うちは母体が酒屋なので、色々なワインをリーズナブルにお出しすることができることが強味です。浜町店のお客様は価格で選ぶというよりも、こちらが提案したワインやお料理を楽しんでくださる方が多いので、コスパの良いものからナチュラル系、ビンテージまでバランス良くそろえています。料理は王道ビストロメニューというよりも、和のテイストを入れたアレンジが料理長のこだわりで、魚介類は毎朝豊洲で仕入れるなど、食材も良いものを選んでいます。「イカのクリームコロッケ」や「鶏レバームース」といった名物料理もあるのですが、メニューでなによりも大切にしているのは季節感。今の時期ならトマトコンソメをところてんにした涼しげな前菜に、甲州のワインを合わせたりするのがおすすめですね。

日本橋浜町で感じる、一からまちをつくる面白さ。

―富士屋本店さんといえば、渋谷や三軒茶屋などのエリアのイメージがありますが、2016年にこの浜町でお店をオープンされたきっかけは何だったのでしょうか？

安田不動産の方に誘っていただいたのがきっかけでした。富士屋本店の発祥は、渋谷の自社ビルでオープンした大衆酒場。酒屋なのでお酒類を安く仕入れ、親しみやすい酒場を作ることで地域で働く人や暮らす人を元気にしたいという思いから始まりました。こうした地域貢献の精神を安田不動産の方が気に入ってくださり、ぜひ浜町で出店をとお声がけいただいたんです。

― 慣れない土地に出店するということで、どんなお気持ちだったのでしょうか？

当時の浜町ではワインバル形態のお店が目新しかったので、期待半分、不安半分というところでした。夜の時間帯に人通りが少ないことが心配でしたが、ハイクラスなワインが充実している「成城石井SELECT」さんが24時間営業されていたりして、もしかしたらワイン好きな方が多く住んでいらっしゃるのかもしれないと思いました。実際にオープンしてみたらたくさんの方に来ていただけて、飲食業界内で「富士屋さんは石油を掘り当てたね！」なんて噂が回りました（笑）。

―富士屋さんがオープンされてから、地域に色々な飲食店が増えた印象があります。

うれしかったのが「富士屋さんが出来たからこっちに引っ越そうと思った」と言ってくださったお客様がいらっしゃったこと。最近はこの界隈にもコスパの良いお店が増えて、このまちで食事を楽しんでくださる人も多くなり、まちが活性化していくのを肌で感じられてとても嬉しいです。自分たちが提供しているのは良い料理とワインとスピーディーなサービスというシンプルなものですが、そこに良いお客様が集まってくださり、自然とコミュニティが生まれていますね。うちのスタッフもみんな“まちづくりをしている”という意識を持っていますし、飲食店として味や雰囲気で勝負するだけじゃなく、それがまちを盛り上げることに繋がっていることにとてもやりがいを感じています。

「日本一いいお客さん」が集まる日本橋浜町の魅力

―お店にはどんなお客様がいらっしゃるんですか？

30～40代の方が多いです。早い時間は年配の方も。お一人のお客様も多いので、お一人様専用メニューを用意しています。浜町のお客様は単純に「おいしかったよ」と言ってくださるだけじゃなくて、「あのソースがよかった」とか、「あのワインがすごい好みだった」など、ディテールの感想をくださる方が多いんです。きっと普段の生活の中でも細かいところに目配りをされている、素敵な方が来てくださっているんだろうなと感じますね。なんというか、浜町のお客様は“日本一”なんじゃないかと思います。

―日本一ですか！

いままで色んなお客様を見てきましたが、本当にそう思います。品があって、偉そうさがなくて、感度の高い方々がどんどん集まってきているのを感じています。

―加藤さんが個人的に気に入っている場所はありますか？

年々素敵な場所が増えてきていて、HAMACHO HOTEL1階の「SESSiON」さんや「CITAN」さんとは一緒にまちを盛り上げようと情報交換もよくしています。あと気になっているのが、最近オープンした「Lien（リアン）」というワインバー。コの字型のカウンターと落ち着いた雰囲気で、またここからも新しいコミュニティが生まれそうです。

―これからの日本橋浜町に期待することはありますか？

オープンしてからの4年間、安田不動産の方々と一緒にまちを盛り上げようと奮闘してきて、その結果がだんだんと出てきていることがうれしいです。今後ますます浜町が面白いまちになっていったらいいなと思います。もう一店舗出してよとよく言われるので、いい物件があったら違う業態で……なんてこともあるかもしれません（笑）。